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東京地方裁判所 平成9年(行ウ)268号 判決

主文

一  被告東京都品川区教育委員会事務局学校教育部長が、原告に対し、平成九年四月一六日付けでした公文書部分公開決定のうち、別紙Ⅱの文書中2ないし5及び8の数字をもって示した部分並びに別紙Ⅲの文書中2ないし5の数字をもって示した部分につき非公開とした部分を取り消す。

二  原告の被告東京都品川区教育委員会事務局学校教育部長に対するその余の請求及び被告東京都品川区総務部長に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その一を被告東京都品川区教育委員会事務局学校教育部長の、その余を原告の各負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告東京都品川区総務部長が、原告に対し、平成七年一一月一三日付けでした別表一記載の文書についての公文書部分公開決定のうち同表記載の非公開部分を非公開とした部分を取り消す。

二  被告東京都品川区教育委員会事務局学校教育部長が、原告に対し、平成九年四月一六日付けでした別表二記載の各文書についての公文書部分公開決定のうち同表記載の各非公開部分を非公開とした部分を取り消す。

第二  事案の概要等

一  事案の概要

本件は、東京都品川区(以下「品川区」という。)の住民である原告が、品川区情報公開条例(昭和六一年品川区条例第四九号。以下「本件条例」という。)に基づき、被告東京都品川区総務部長(以下「被告総務部長」という。)に対し、別表一記載符号Iの文書(以下「本件文書I」という。)の、被告東京都品川区教育委員会事務局学校教育部長(以下「被告学校教育部長」という。)に対し、別表二記載符号Ⅱ及びⅢの各文書(以下右各文書を各別に「本件文書Ⅱ」及び「本件文書Ⅲ」という。)の公開を請求したのに対し、被告らがそれぞれ一部を非公開とする決定をしたため、原告において当該非公開部分のうち右各表記載の各非公開部分に係る決定の取消しを求める事案である。

二  関係法令の定め

本件条例は、公文書の公開を求める品川区民の権利を明らかにするとともに、公文書の公開等に関し必要な事項を定め、もって品川区民の知る権利を保障し、品川区民の区政への参加の機会の拡大、品川区民と区政との信頼関係の増進及び一層民主的な区政運営の実現を図ることを目的として(本件条例一条)定められている。

本件条例では、品川区長、教育委員会及び議会等を実施機関とし(本件条例二条一号)、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書等であって実施機関が管理しているものを公文書であるとして(本件条例二条二号)、何人もその公開を請求できるとする(本件条例五条)。

そして、実施機関は公文書の公開請求があったときは、原則として当該請求に係る公文書を公開しなければならない(本件条例六条)が、当該公文書中に、「個人に関する情報で、特定の個人が識別され、または識別され得るもの」(以下「特定個人情報」という。)で次のアないしウのいずれにも該当しない情報が記録されていることにより、公開できない合理的な理由がある場合には、公文書の公開をしないことができる(本件条例七条一号)とされている。

ア  法令及び条例(以下「法令等」という。)の定めるところにより、何人でも閲覧することができるとされている情報(本件条例七条一号ただし書ア)

イ  公表することを目的として、実施機関が作成し、又は取得した情報(本件条例七条一号ただし書イ)

ウ  法令等の規定により行われた許可、免許、届出その他これらに類する行為に際して作成し、又は取得した情報で、公開することが公益上必要であると認められるもの(本件条例七条一号ただし書ウ)

また、公文書の公開請求に係る公文書に、公開しない情報とそれ以外の情報が併せて記録されている場合において、公開しない部分とそれ以外の部分とを容易に分離することができ、かつ、分離したことにより公開請求の趣旨が失われることがないと認められるときは、実施機関は、公開しない情報に係る部分を除いて、当該公文書の公開を行うものとされている(本件条例八条一項)。

なお、議会を除く実施機関は公文書の公開請求に対する公開の可否の決定及び当該決定の内容を公開請求した者に通知する権限を、品川区規則等により、その補助機関たる職員に委任するものとされている(本件条例四条一項)。

三  争いのない事実等

1  当事者等

(一) 原告は品川区の住民である。

(二) 被告総務部長は、本件条例四条一項により、品川区長を実施機関とする本件文書Ⅰに係る本件条例に基づく公文書の公開請求に対する公開の可否の決定の権限の委任を受けているものである。

(三) 被告学校教育部長は、本件条例四条一項により、品川区教育委員会を実施機関とする本件文書Ⅱ及び本件文書Ⅲに係る本件条例に基づく公文書の公開請求に対する公開の可否の決定の権限の委任を受けているものである。

2  本件訴訟に至る経緯(甲第一号証の一、第一三号証の一、二、乙第三号証ないし第六号証)

(一) 本件文書Ⅰは、作成当時東京都板橋区立志村第二小学校長であったaを品川区教育委員会事務局学校教育部指導課長(以下「指導課長」という。)として採用するに当たり品川区総務部において作成され、採用予定職、aの現職、氏名、生年月日(年齢)、資格、免許等、略歴(学歴及び職歴)及び主な業績が記載された採用選考調書である。

また、本件文書Ⅱ及び本件文書Ⅲは、いずれも、平成八年中に品川区立冨士見台中学校の生徒三名がふざけてたたきあっているうちに一人の生徒が傷害を負うという事件(以下「本件傷害事件」といい、本件傷害事件において傷害を負った生徒を「被害生徒」、傷害を負わせた生徒を「加害生徒」という。)が生じ、このため被害生徒が、当時所属していた同中学校のクラブ(以下「本件クラブ」という。)の活動の一環として予定されていた行事(以下「本件行事」という。)に参加することができなくなったことから、本件クラブの顧問教諭(以下「顧問教諭」という。)が、加害生徒に対し体罰を行使したという問題についての報告書である。

なお本件文書Ⅰないし本件文書Ⅲが公文書であることは当事者間に争いがない。

(二) 原告は、被告総務部長に対し、平成七年一〇月一八日、「幹部職員(指導課長)の採用選考についての特別区人事委員会への申請決定に関する起案文書」の公開を請求した。

被告は、右請求に係る文書を本件文書Ⅰであると特定し、平成七年一一月一三日付けで、本件文書Ⅰについて「採用予定職」、「氏名」及び「現職」の各欄並びに欄外についてはこれを公開することとし、別表一の「非公開部分」欄記載の部分(以下「本件非公開部分一」という。)については、特定個人情報に該当するとして非公開とする旨の公文書部分公開決定(以下「本件決定一」という。)を行った。

原告は本件決定一を不服として、平成七年一二月二五日、品川区長に対し審査請求(以下「本件審査請求一」という。)を行った。

(三) 原告は、被告学校教育部長に対し、平成九年二月二七日、「五月二九日冨士見台中学校体罰事件報告書」の公開請求を行った。

被告学校教育部長は、平成九年四月一六日、右請求に係る文書を、本件文書Ⅱ及び本件文書Ⅲであると特定し、本件文書Ⅱ及び本件文書Ⅲの各一部につき、本件条例七条一号及び同条三号に該当するとして、非公開とする旨の公文書部分公開決定(以下「本件決定二」といい、本件決定一と合わせて「本件各決定」という。)をした。

原告は、本件決定二を不服として、平成九年五月六日、品川区教育委員会教育長に対し審査請求(以下「本件審査請求二」という。)を行った。

(四) 品川区長は、平成九年一〇月八日、本件審査請求一を棄却した。

品川区教育委員会教育長は、本件審査請求二が行われた日から三か月目に該当する平成九年八月六日が経過しても、本件審査請求二に対する回答を行わなかった。

このため、平成九年一一月一三日、原告は本件各決定の取消しを求める本件訴訟を提起した。

(五) なお、品川区教育委員会教育長は、本件訴訟の係属中である平成一〇年八月二八日、本件決定二において非公開とされていた本件文書Ⅱ及び本件文書Ⅲのうち一部について更に公開する裁決を行った。被告学校教育部長は、同年九月七日、本件文書Ⅱ及び本件文書Ⅲについて、当該部分の公開を行う旨の決定を行った。

これを受け、原告は、本件訴訟において、本件決定二について取消しを求める部分を減縮し、最終的に本件決定二のうち別表二の非公開部分の欄に記載された部分(以下「本件非公開部分二」という。)に係る部分の取消しを求めている。

第三  争点及び当事者の主張

一  争点

本件の争点は、本件非公開部分一及び本件非公開部分二が、本件条例に定める非公開事由(特定個人情報)に該当すると認められるか否かという点である。

二  当事者の主張

1  本件非公開部分一について

(原告)

(一) 公文書を公開することは、品川区民の知る権利を保護し、品川区民の区政への参加の機会の拡大、品川区民と区政との信頼関係の増進及び民主的な区政運営の実現を図ることを目的とするものであり、本件条例は公文書を原則として公開するとしており、非公開は例外であるから、非公開とする範囲は厳格に解さなければならない。

(二) 一般職の公務員の資格免許の有無、略歴(学歴及び職歴)及び主な業績等は当該公務員のプライバシーに該当する事項であるが、指導課長は、地域の教育力向上を担う者であり、民主的な区政の実現、品川区民と区政との信頼関係の増進の見地から、指導課長に係る右各情報は公開すべきである。

採用選考調書は、品川区の職員以外の者から品川区の幹部職員を採用するに際し、品川区総務部が、特別区人事委員会の審査に供するために採用の要件たる事項を簡便にまとめて作成したものであり、公文書に該当し、個人に関する情報とは認められない。

品川区の職員以外の者から品川区の幹部職員を採用する場合には、品川区民と当該幹部職員の候補者との接点は希少であるところ、当該候補者が現実に品川区の幹部職員として採用された場合には、品川区民がその適否をチェックする必要がある。この品川区民の知る権利を保障するという見地及び行政の透明性を確保するという見地から当該情報を公開すべきである。

そして、幹部職員として採用された場合の採用選考調書に記載された事項であれば、当該幹部職員となった者の特定個人情報に該当する事項であっても、公開されることを望まないような情報は記載されていないと推認できる。

本件のように既に氏名が明示されたものについては、非公開の対象外である。ただし、住所及び電話番号は、プライバシーに係る情報と認められる。

(被告総務部長)

本件非公開部分一は、いずれも特定個人情報であるから、本件条例七条一号本文に該当し、かつ同号ただし書アないしウのいずれにも該当せず、公開できない合理的理由がある。

2  本件非公開部分二について

(原告)

(一) 別紙Ⅱの文書中1の数字をもって示した部分及び別紙Ⅲの文書中1の数字をもって示した部分はクラブ名であり、第三者には、個人名の識別とは全く関連性を持たない。

(二) 別紙Ⅱの文書中2ないし5及び7の数字をもって示した部分並びに別紙Ⅲの文書中2ないし5の数字をもって示した部分は事件の概要を示すものであるが、品川区教育委員会が原告に交付した「平成元年度中学校生徒の問題行動」と題する書面(甲第一二号証)では、問題行動のあった年月日、曜日及び場所並びに問題行動の内容並びに加害生徒の所属する学年が示されている。

(三) 別紙Ⅱの文書中6の数字をもって示した部分及び別紙Ⅲの文書中6の数字をもって示した部分はクラブ名であり、当該クラブ名は被害生徒の優れた能力に関係するものであり、公開の妨げとならない。

(四) 別紙Ⅱの文書中8及び9の数字をもって示した部分は自治体名と競技内容であり、公開しても妨げになるものではない。

(被告学校教育部長)

本件非公開部分二は、いずれも別表三の各非公開部分の項に対応する「被告学校教育部長の主張」欄に記載のとおり、本件条例七条一号本文(特定個人情報)に該当し、かつ同号ただし書アないしウのいずれにも該当せず、公開できない合理的理由がある。

第四  当裁判所の判断

一  本件条例は、品川区の公文書の公開等に関し必要な事項を定め、もって情報の公開を請求する品川区民の権利を明らかにしたものである(本件条例一条)。

普通地方公共団体の住民がその自治体行政に関する様々な意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会を持つことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成、発展させるため、また、住民の意思による住民自治の実現のために有用であり、地方公共団体に対する情報公開請求権は、憲法二一条から派生する「知る権利」の一態様としての性質を有するものであるということができる。もっとも、情報公開請求権は、公権力に対し一定の作為を要求するという性質を有するものであるから、当該権利の内容や行使の方法を定める法又は条例等が制定されて初めて具体的権利性を有することとなるものである。その意味において、品川区における公文書の公開請求権は本件条例により創設された権利であり、権利の内容も本件条例によって定められることとなるのである。

そして、本件条例は、実施機関は公文書の公開請求があったときは原則として当該請求に係る公文書を公開すべきこと(本件条例六条)、情報の公開を求める権利が十分に達成されるように本件条例を解釈、運用すべきこと(本件条例三条一項)を規定するが、他方、個人に関する情報がみだりに公にされることがないような配慮をすべきとし(本件条例三条二項)、特定個人情報で公開できない合理的理由がある場合に、原則としてこれを公開しないことができると規定している(本件条例七条本文)。これらの規定は、品川区民の知る権利を尊重しながらも、公開されることによりプライバシーの侵害が生じるのおそれがあるような情報については、原則として公開しないことができることとして個人のプライバシーの保護を優先させるべきことを定めたものであると解される。そして、本件条例七条一号本文が「プライバシー」の用語を用いることなく特定個人情報を原則として非公開としているのは、その概念の外延が必ずしも明確でなく、一度侵害されると回復することが困難であるという性質を有する個人の「プライバシー」を保護するため、あえて非公開とできる範囲をプライバシーに関する情報に限定しなかったものであり、公開できない合理的理由の有無、すなわち、プライバシー該当性の判断及び公開の当否の判断を実施機関に委ねたものであると解される。もっとも、特定個人情報であっても、類型的に個人のプライバシーの侵害が起こる可能性がないことが明らかな情報についてはこれを非公開とすべき実質的な理由はないし、また人の生命身体等の重要な法益に重大な侵害が生じるのを防止するために当該情報を公開する必要がある場合等には、個人のプライバシーを侵害するおそれがあってもなお当該情報を公開して当該利益を保護すべきであるという強い要請があるから、このような場合には例外的に特定個人情報であっても公開すべきこととして(同号ただし書アないしウ参照)、両者の調和を図っているのである。

そうすると、本件条例が品川区民の情報公開請求権を定めた趣旨を看過してはならないことは当然であるが、そのことをもって、本件条例が原則非公開としている特定個人情報の範囲を限定的に解すべき理由とすることはできないというべきである。

二  本件非公開部分一について

公文書上に記載のある情報が特定個人情報に該当するか否かの判断は、個人のプライバシーを保護するために特定個人情報を原則として非公開とできるとした本件条例七条一号の趣旨に鑑み、当該情報により又は当該情報とそれが記載されている公文書上の他の公開されている情報と組み合わせることによって、不特定多数の者が「特定の個人」を識別し、又は識別し得る情報であるか否かを客観的に判断すべきである。

これを本件についてみるに、前記当事者間に争いのない事実等及び証拠(甲第五号証)によれば、本件文書Ⅰは、その作成当時東京都板橋区立志村第二小学校長であったaに係る情報であることが本件文書Ⅰの記載自体から明らかであり、本件非公開部分一は、aの生年月日(年齢)、資格、免許等、略歴(学歴及び職歴)、主な業績であって、いずれもa個人に関する情報であると認めることができる。そうすると、本件非公開部分一は、本件条例七条一号本文の特定個人情報に該当するというべきである。そして、本件非公開部分一は、同条一号ただし書アないしウのいずれにも該当せず、その情報の性質に照らして公開できない合理的理由があるというべきである。したがって、本件非公開部分一を本件条例七条一号本文の特定個人情報に該当するとして非公開とした被告総務部長の判断に違法はないというべきである。

三  本件非公開部分二について

次に、本件非公開部分二について検討すると、前記争いのない事実等及び証拠(乙第四、第五号証)によれば、本件文書Ⅱ及び本件文書Ⅲのうち既に公開されている部分には被害生徒及び加害生徒を特定し得る氏名、住所等の記載はないこと、別表三は、本件非公開部分二を内容に従って分類したものであるが(以下各分類に該当する部分を「非公開部分」に同別表記載の英字符号を付して表示する。)、非公開部分Aは、本件教諭が顧問を務め、被害生徒が所属し主要選手として活躍していた本件クラブの名称を示す記載であること、非公開部分BないしDは、本件傷害事件のあった月日、曜日及び本件傷害事件の起こつた場所を示す記載であること、非公開部分Eは被害生徒が負った傷害の内容を示す記載であること、非公開部分Fは本件行事の開催の月日及び曜日であること、非公開部分G及びHは本件行事の名称を示す記載であること、非公開部分Iは、本件クラブの名称を特定し得る記載であることが認められ、被告学校教育部長は、これらがいずれも加害生徒及び被害生徒を「特定し得る」情報に該当すると主張している。

しかしながら、非公開部分BないしEは、その内容及び本件文書Ⅱ及び本件文書Ⅲのうち既に公開されている部分の内容に照らし、本件傷害事件の日時、場所及び被害生徒が被った傷害の結果を示すものということはできても、右の限度での本件傷害事件の概要以上に、加害生徒及び被害生徒が特定、識別される内容であるとは解しがたい。

他方、公開された本件文書Ⅱ及び本件文書Ⅲの内容をみると、被害生徒は本件クラブの主力選手であり、本件傷害事件によって負傷したため、本件傷害事件後に予定されていた本件行事に出場できなかったこと、被害生徒が顧問教諭の加害生徒に対する体罰の状況を目撃し、その目撃状況につき事情聴取に応じたこと、その内容、被害生徒が右事情聴取の後に修学旅行に参加していることが認められるところ、このような状態の下で、被害生徒の所属する本件クラブの名称が明らかにされれば、既に公開された右の情報と総合することにより被害生徒を特定することは可能となり、そうすると、本件傷害事件の被害者であること、体罰の目撃者として事情聴取に応じたこと及びその目撃内容の認識という個人に関する情報について特定個人である被害生徒を識別し得るという結果になる。したがって、被害生徒が所属する本件クラブの名称が明らかになるような情報については、特定個人情報に該当するというべきところ、非公開部分Aは、直接的には顧問教諭の顧問先のクラブ名ではあるが、本件文書Ⅱ及び本件文書Ⅲの内容に照らし、それが被害生徒の所属する本件クラブの名称であることは明らかというべきであるから、特定個人情報に該当するというべきであるし、非公開部分Iも本件クラブの名称を特定し得る記載であるから、特定個人情報に該当することになる。また、非公開部分Fは本件行事の開催日、非公開部分Gは本件行事の名称の一部であるが、右開催日及び名称から本件行事の内容が判明すれば、それに参加する予定であった被害生徒が所属する本件クラブの名称も明らかとなってしまう関係にあるものと推認することができるので、これも特定個人情報に該当するということができる。そして、非公開部分A、F、H及びIは本件条例七条一号ただし書に列記された事由に該当せず、右特定個人情報が、心身の未熟な少年に関するものであることからすると、個人のプライバシーの保護に加え、少年の健全な育成という観点に照らして、右特定個人情報については、公開できない合理的な理由があるというべきである。

しかし、非公開部分Gは、本件行事の名称の一部とはいってもその内容は地方自治体名ということであるから、それが公開されたとしても、本件行事の名称、ひいては本件クラブの名称が明らかになるというものではないことは明らかというべきであり、これが特定個人情報に該当するとは認められない。

したがって、本件非公開部分二のうち、非公開部分A、F、H及びIは特定個人情報に該当すると認められるものの、非公開部分BないしE及びGは特定個人情報に該当するものとは認められず、本件決定二のうち、非公開部分BないしE及びGに係る部分は違法というべきである。

第五  結論

以上によれば、原告の本訴請求のうち、被告学校教育部長に対する請求のうち非公開部分BないしE及びGに係る部分は理由があるからこれを認容し、被告学校教育部長に対するその余の請求及び被告総務部長に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六四条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 團藤丈士 裁判官 水谷里枝子)

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